大腸菌は自然界に広く存在する細菌ですが、人間の体の中にもいつも存在します。
その大腸菌の中でも人体に重い症状を引き起こすものは、病原性大腸菌と呼ばれます。
病原性大腸菌にはいろいろ種類がありますが、その中で「腸管出血性大腸菌」と呼ばれるものがあり、代表的なものはO157です。(他にもO111、O26などがあります。)
これらの腸管出血性大腸菌はベロ毒素という強い毒素を排出し、この毒素が体内に重篤な症状を引き起こします。
(なかでもO157はこのベロ毒素をたくさん排出します。)
重篤な症状には溶血性尿毒症症候群(以下HUSと略します)があります。
O157による食中毒に使う薬はあるのか、その治療方法と注意点について紹介します。
Contents
O157による食中毒に使う薬はあるの
O157による食中毒に使う薬はあります。
相手は大腸菌なので治療には適切な抗生物質と、出ている症状に対し対症療法の薬を使います。
タイミングや薬の選択にはいろいろありますが、早期の段階では対処しやすいでしょう。
感染した早い段階で、わかるような症状などがでればいいのですが、発症まで4~8日間の潜伏期間があるので対応が遅れ気味になるのが残念です。
患者の体内より取り出した(検便にて)O157に効果がある抗生物質を選択して使用します。
時間が限られている場合は、医師の判断のもとで効果的な抗生物質を選択することもあります。
症状は主に下痢や腹痛なので、それに対する適切な薬剤を選択します。
重大な症状が出たときは、それに対応した処置を施します。
詳細は次で・・・
治療方法
治療としては原因菌であるO157をたたくために抗生物質の使用も試みます。
アメリカではST合剤で悪化したとか、抗生物質を使っても変わりがなかったというような報告があり、WHOでは検討課題として取り上げられている。
日本の厚生省が調査した情報では、抗生物質は早期投与した場合にはHUSの発症率が低かったとの報告がある。
(HUSになると腎臓が障害されたり、脳症がでやすい)
「抗生物質を使用すると菌が破壊されベロ毒素の放出が増えた」という試験管での実験から、
「抗生物質の使用は、腸管内で増殖した菌を破壊することにより、症状を悪化させるのではないか」との懸念もある。
それらの情報を念頭において、実際の治療の状況を踏まえながら、主治医が判断して対応していくことになります。
できれば、早期(発症後2~3日)の対応が望まれます。
原則としては経口投与として抗生物質を使用します。
*小児:ホスホマイシン(ホスミシンなど)、ノルフロキサシン(ハクシダールなど)、カナマイシン
*成人:ニューキノロン(クラビットなど)、ホスホマイシン(ホスミシンなど)
日本ではホスホマイシン(1日2~3g、小児は40~120mg/kg/日を3~4回に分服)の投与が多く実施されている。
おそらく、早めの投与を優先させるため、比較的安心なホスホマイシン(ペニシリンショックの副作用が起こりにくいなど)を選択していると思われます。
カナマイシンではその作用機序がタンパク合成阻害がゆえにHUSが起こりにくいとの実験レベルでの報告もでていますが、これからの検討が必要です。
対症療法の薬も使用します。
O157による食中毒は主な症状が下痢や腹痛です。
下痢に対応するには。
下痢止めは使わず、脱水症状に注意して、経口摂取が困難な場合は輸液などの投与を試みます。
ビオフェルミンやミヤBMなどの整腸剤も使うことになります。
もちろん、安静にして、消化にいい刺激の少ないものを食べるように指導します。
腹痛に対しては。
適切に痛み止めを使用します。
強い腹痛などに対する痛み止めはペンタゾシン(ソセゴンなど)の皮下注または筋注を慎重に行う。
HUSに対しては、藥というよりは処置で対応します。
急性腎不全に対しては、人工透析をしたり。
貧血がひどくなれば、輸血の投与も考えます。
注意点について
抗生物質の投与に関しては早めの投与が大事である。
下痢止めは、毒素などの排泄を阻害し、吸収を助長する可能性があるので使用しない。
腹痛には臭化ブチルスコポラミン(ブスコパンなど)などは腸管運動を抑制するため、避けた方が良い。
脱水症状の改善のための輸液の投与にあたっては尿量に注意し腎機能を注視して対応します。
痛み止めの使用に際しては、副作用に充分に注意して、使用回数を極力控えるようにします。
まとめ
O157による食中毒には、早い段階での適切な抗生物質の投与、下痢に対しては、経口摂取が困難な場合の脱水症状の改善のための輸液の使用。
腹痛に対しては、必要最小限の痛み止めの使用、強い腹痛に対しては、ペンタゾシンの皮下注や筋注を慎重に行うことで対応ができます。
重大な症状がでる前になんとかしたいですね。